無題・4

コイツと付き合い始めてから、3年の月日が流れた。

キスを交わした回数は、さほど多くは無い。

だからその先の行為の回数も、比例して多くは無い。

恥ずかしいからでもある。

自身から求めてはいないし、そういう雰囲気を何故か遠ざけてしまう。

以前も、今も。

「ヒョク、お帰りなさい」

「ただいま」

いつもの挨拶。 出迎えてくれて、作ってくれた夕飯を一緒に食べて、

そしてだらだらと余暇を過ごして。

「…そろそろ寝るか」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみ、ヒョク」

いつものやり取り。 電気を消す。

隣でドンヘが眠るのを確認して、俺も瞼を閉じる。

…前ほどドンヘは、俺に何かを求めては来なくなった。

それは自身が成長したとか、落ち着いたとか、

ある程度関係が安定して来たからでもある…のだろうか。

そんな事を疑問に思っていても、訊けない。 訊けるはずが無かった。

…怖いから。

その、逆の言葉を聞いてしまう事が。

「ねえ、ヒョク」

とある週の日曜日。

ドンヘが俺の名前を呼んで、振り向かせて、

「オレの事、好き?」 そう問う。

「何だよ、いきなり」

「オレはヒョクの事好きだよ。 ヒョクは?」

「…好きだよ」

好きだ。 そう言った。 ドンヘに向かって。

そしてその流れから、ドンヘは俺に抱き着いて来るのに、それが無かった。

だから、無理矢理引き寄せて 半ば強引に口づけた。

衣服も脱がせて その場に押し倒した。 何度もコイツの名前を呼んだ。

「…ヒョク…」

快感でも安堵感でもなく 虚しさかそれに似た虚無感が巡っている俺を、

ドンヘが宙を見ながら呼ぶ。

「…オレ ヒョクのこと傷付けてる…?」

「…何言ってるんだよ」

そんな訳ないだろ。 そう否定する声も、何故か虚しい。

「ねえ…ヒョク」

「そうだ…ドンヘ、今度の休み、久々に何処かに出かけよう。

何処がいい? お前が好きなところに」

「…別れようか」

時間が止まったような感覚に襲われる。

聞きたくは無かったけれど、覚悟はしていた言葉。

傷付いた。 涙が出て来そうだ。 体中が震えて来そうだ。

でも…ほっと、ほんの少し その言葉に落ち着いた自分が居る。

「何で…」

「ねえ…。 ヒョク、オレは ヒョクの事が好きって言葉に、ウソは無いよ。

でもそれは…ヒョクを苦しめてる。 それがヒョクを傷付けてる」

「そんな事…」

「ヒョク… 人を好きになる事は、怖い事なんかじゃないよ。

人から好かれるって事も 同じだよ。 それを…忘れないで」

ドンヘの右腕が 俺の手を掴む。

…ほんのりと温かかった。

「……ごめん…」

ひとしきり泣いて、そして俺は いつの間にか眠っていた。

起きてみたら、既に ドンヘの姿は無かった。

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